父親その2

実家へ帰るまでの時間、俺と妹は冷静だった。
これからの家のことについて話したりもした。
父親の会社、母親の浮気相手、学費、家のローン。
考えることは山ほどあった。
母親の浮気について妹と話すのは久しぶりだった。



俺が中2、妹が小6の時のことである。
母親の口から、思いもよらない言葉が出てきた。
「お母さん、他に好きな人が出来ちゃったの。」
聞けば、うちを作った大工らしい。
そういえば、学校から帰ると、なぜかダイニングでお茶を飲んでたりしたことがしょっちゅうあった。
その言葉を聞いた時俺は、ドラマみたいだなおい、とか思っていた気がする。
両親の仲が冷え切っている様子は昔から見ていたし、特別驚きもしなかった。
妹がどういう表情でいたかは覚えていない。



実家の最寄の駅に着くと、従兄弟が車で迎えに来ていた。
車中の空気は重かった。何て言ったらいいかわからない。従兄弟もそう言った。

実家につくと、リビングに、父親の弟夫婦とその子供二人がいた。
父親の遺体は、まだ検死中だという。
父親は、家の裏の栗畑で倒れていたらしい。
父親はよく、余分な枝を切ったり、草を抜いてたりしていた。
病院で死んだわけでは無いため、検死や、第一発見者への事情聴取に時間がかかっているようだ。


第一発見者は、うちの母親。
家の電気がついていないのに、車がある。家の中には誰もいない。
この時点でおかしいと思った母親は、家の裏の栗畑を必死に探したらしい。
すでに外は暗かったため、近所の人を呼んで一緒に探してもらう。
そして、仰向けになって倒れている父親を見つけた。
もう、体は冷たかったらしい。
探していた時、発見した時。その時の母親の気持ちを考えるといたたまれなくなる。


母親がダイニングに来た。検死が終わったらしい。
母親の様子は、いつも通りだった。
この時になってもまだ俺は、父親が死んだと信じてはいない部分があった。
信じてはいないというより、実感が湧かないと言ったほうが正確だろうか。
そして、父親の遺体のある和室へと向かった。