知らせ

午後8時くらいだっただろうか。母親から、携帯に電話が来る。
声の様子が、明らかにおかしい。


父親が倒れたから、すぐ帰ってきて。


こういうことらしい。
母親は軽くパニック状態で、何を言ってるのか理解するのに苦労した。
父親は、4ヶ月ほど入院しており、2ヶ月ほど前に退院したばかりだった。
お盆に実家に帰った時には、声にハリが無い感じではあったが、元気だった。


以前にも何度か倒れたことがあり、正直、ある程度死は覚悟していた。
妹がバイト中だったので、帰ってくるのを待ち、その間荷造りをした。


また、母親からの電話。さっきより少し落ち着いた声。衝撃的な内容。


「お父さん、もう死後硬直始まっちゃってるから。今、検死の人が来てる。
しばらく東京戻れなくなるから、そのつもりでいて。」


母親は泣いていた。死後硬直、という唐突な言葉に俺も動揺を隠せず、
返事をする声が震えていた。
しばし、ぼーぜんとする。
は?死後硬直?もう死んでいる?もう会えない?こんないきなり?
納得がいかなかった。1ヶ月前に会った時は、あんなに元気だったのに。


頭の中が整理されると、今度は涙が溢れてきた。
悔しいのか悲しいのか、どういう涙かはよくわからなかった。
ただ、父親の顔が頭に浮かぶ度、涙が止まらなくなった。


なんとなく、元カノに電話をした。相手は誰でもよかった。
だが、泣きながら電話をして、慰めてくれそうな相手が他にいなかった。
元カノは、普通に慰めてくれた。何て言ってあげればいいがわからないが、元気を出してと。
俺はボロボロ泣いていた。
電話の向こうで泣いてたりしたら、母性本能をくすぐるかなぁ、また後でヤれるかなぁなんて考えながら。
こんな状況でも、こんなことを考えてたりする自分が嫌だった。


妹が帰ってくる。妹も、母親からすでに電話で聞いている様子だった。
特に、泣いた様子も無い。荷造りを終え、二人で家を出た。